《第5回》

〜鳥取県ローカルベンチャー支援補助金に挑戦〜

この地域の問題点とは

鳥取県は、地域の問題点の解決につながる起業に対して資金提供する補助金制度があります。補助金は、事業費の半分(上限200万円)です。返還義務はありません。


この補助金があれば、資金的に大いに負担が軽くなるため、この制度へ申し込む事にしました。しかし、申請書を出すだけで補助金がでるわけではなく、書類審査と鳥取県庁でのプレゼンテーションがあります。そのプレゼンテーションの結果を受けてさらに審査会で審査された上で採択が決まります。

江府町過疎化の解決策は

なんとしてもこの補助制度を利用させていただきたく、事業計画書の作成に取り組み始めました。 内容は多岐にわたり、その地域の問題点、その解決策、その効果などです。


そこで、なぜこの事業を始めようとしたのか、なぜこの事情が江府町の町おこしにつながるのかの説明について、画像を多用し、論理的にも直感的にも審査員の理解と共感を得られるように工夫しながら作成しました。

地元資源の見直し

担当部署は商工労働部産業振興課です。書式は自分が今まで使用してきたビジネス用のスタイルではなく、率直に言うと分かりにくいため、産業振興課へ記載方法についてお尋ねすると、丁寧に教えてくださいますし、それ以上に、「この制度のポイントはここだから、こうした点が明確になるようにした方が、よりいいですよ」等のアドバイスもいただけました。


自分の鳥取県庁に対する印象は「補助金出してあげようか」という上から目線ではなく、どうぞこの補助金を利用して地域のためになるよう活躍してください、応援しますよ。という気持で運営していることをひしひしと感じました。そんな思いに応えるべく、さらに自分も頑張ろうという気持ちが高まるのでした。

具体的にはどうする

実はこの制度を知ったのは、以前にも話に出た鳥取県移住定住フェアでの事です。このフェアに鳥取県もブースを設けておりました。このブースが何をしているのか分かりませんでしたが、以前にお話したように、情報収集は、相手との接触回数に比例して増えると考えておりましたので、特段聞くことも話すこともありませんでしたが、先ずこのブースに座ってみました。


この、行動は今までの職業病に近いかもしれません。というのも、長い間、営業をしており、顧客には特段の要件がなくともアポイントを取り、出向くことがよくありました。ネタがなくとも、訪問して商談をしてみると、お話しながら、新しいアイデアのきっかけになるような情報を得る事が出来たり、お互いに話が盛り上がると結構、次の商売につながる話が生まれる事がありました。鳥取県庁のブースにも同じ感覚で先ずは椅子に座ってみました。 自分がクライアントの立場で、聞きたい事や話したい事がない場面での極意は、こちらからは何も話さない事です。すると相手がしびれをきらし、相手から口火を切って「鳥取に移住をお考えですか?」とか、「何か鳥取ですることをお考えですか?」などと聞いてくるものです。案の定、自分が黙っていると、ご担当者の方は「鳥取でなにかお考えですか?」と聞いてくださいました。 100%想定通りの展開です。

ターゲットは誰か

そこで、鳥取は奥大山で水洗いコーヒーの焙煎業を起業しようと考えているとお話ししたところ、ご担当者の方は鳥取県ローカルベンチャー支援補助金の制度を案内してくださいました。このような制度があるとは知りませんでしたので、天にも昇るような気持ちになりました。やはり、情報収集は相手との接触回数とともに質と量が高まってくると考えていた事が、まさに実を結んだ瞬間だと思いました。同時に、この情報は天から「奥大山で起業せよ」との導きであると勝手に思うのでした。


鳥取県ローカルベンチャー支援補助金まとめ

全エネルギーをこのローカルベンチャー支援補助金の申請書作成に注ぎ、提出したところ、程なくして書類審査が通ったとの知らせがあり、つぎは鳥取県庁でのプレゼンに臨む事となりました。伝えたい内容がてんこ盛りになってしまい、パワーポイントで作成すると、全28枚となってしまいました。与えられたプレゼン時間は10分のため、1枚当たり平均21秒しかありません。そこで、一言でさらっと流すシートと、しっかり主張し、理解と共感を得られるようにするシートの時間配分を変え、短いシートで5秒、長いシートで55秒に組み立てました。また、話すスピードもシートにより変えて全10分未満に収まるよう、修正を加えました。


プレゼン時間が1秒でも過ぎると、強制終了させられるので、そのような事にならないよう、ストップウォッチで測りながら何度も練習し、所定時間の2秒前に収まるまで練習を繰り返しました。

発表時間管理

プレゼンはパワーポイントで作成したシートを大スクリーンに映し出し、それを審査員が見ながら私のスピーチを聞くというスタイルです。このスピーチが原稿を読むようなレベルでは審査員の心を動かし、共感と強い印象を残すことは到底かなわないので、スピーチ内容は忘れないように、要点だけはメモして置くものの、内容は暗唱してスピーチできる迄何度も練習しました。 大阪から鳥取へ向かう高速バスの車内でも小さな声で繰り返し練習をし、プレゼン寸前まで練習を重ねました。


プレゼンで大切な事の一つに、審査員にアイコンタクトを送る事があります。審査員の目をみながら話せるようにし、しかも複数の審査員とアイコンタクトがまんべんなくできるよう、左端の方の次は右から2番目の方、次に左から2番目の方にアイコンタクトを送るというような配分です。これができるくらいに余裕をもって臨めば怖いことはありません。・ さらに声の発声も大事だと思い、発声方法をネットで調べると、舌を前に出す練習をすると声がこもらず、聞いている方によく通る声になるという情報を得たので、舌出しの練習を自宅で繰り返し、プレゼン直前には県庁のトイレで人目を憚らず、鏡の前でボイストレーニングしてから望みました。

審査員は約7人くらいであったと記憶しております。プレゼンの練習を自分が納得できるまで何回も練習して臨んだため、緊張する事もなく、自分の発表を終えました。次は審査員からの質問が約20分ありました。特段、答えに窮するような質問ではなく、前向きな事を聞かれる内容でした。この補助金制度が鳥取の地域問題に熱心に取り組んでいる事をここでも感じるのでした。 プレゼン内容のエッセンスをかいつまんで述べると次の通りです。尚、当日使用したプレゼンシートを数枚抜粋して1枚目〜2枚目に掲載しました。

  • 1.江府町の問題点は中山間地域が多く、農業に不利な土地であり、担い手不足による耕作放棄地が広がり、また働く場がそもそも少ない。
  • 2.江府町の物産品が十分あるとは言えない。
  • 3.解決策として新たな物産品の創出をすることで税収アップと町おこしにつなげる。
  • 4.江府町の代表的資源は2つ?物理的資源の「豊富な水」、ブランド資源の「奥大山」この2つを活用して新たな物産品を創出する.
  • 5.具体的には珈琲生豆を奥大山の水で洗ってから焙煎するコーヒー豆を物産品として販売する。
  • 6.ターゲットは自分へのお土産。理由は、お土産予算は他人用は約千円だが自分用は5千円位まで出している事がわかったから。また、珈琲は嗜好品のため、珈琲好きな方は自分には予算を割くと考えたから。
珈琲生豆がどれくらい汚れているのか

尚、珈琲生豆を水洗いする理由は、珈琲生豆は土埃で汚れており、これが雑味の原因の一つだからです。生豆を水洗いして土埃を落としてから焙煎すると、コーヒー豆本来の味が味わえ、雑味がなくスッキリした味となり、冷めても美味しく飲めるようになるからです。 しかしながら、この工程はとても手間がかかるため、すでに大規模な焙煎をしている焙煎所では無理であり、自分のように、今から始め、しかも小規模であるからこそできる点では後発の強みであると考えています。


洗うと泥水が出てくる

ここで、水洗いした効果についても触れてみます。 趣味で始めた水洗い珈琲を自分の友人や、妻の友人に、水洗いしてから焙煎した事を伏せて差し上げたところ、返って来たコメントは一様に「すっきりしている、飲みやすい、雑味がない」というものでした。このような複数の方のコメントを聞くと、自分だけがそう思っているだけでなく、多くの方が同じ感想を持つことがわかりました。これで水洗いした珈琲に大いに自信を持つ事が出来ました。水洗い珈琲を世に出すことが自分の使命であるという使命感をもってプレゼンしたので、終了してみると何か清々しい思いで帰阪することが出来ました。


そして、プレゼンが終了してから数日後に補助金が採択された知らせが届き、先ずは第一歩を踏み出すことが出来ました。ここでも天がこの地で開業できるよう、資金援助をして下さったのではないかと勝手に思い、さらにこの恩に報いようと、一層の事業熱が沸き上がるのでした。(つづく)



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